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季節の室礼 床の間飾り




十月(神無月・神去月・神在月・良月)

月ニ雁(かり)



雁(マガン)。ガンカモ科の野鳥。日本では九月の終わりから十月にかけて北半球シベリア地方から越冬の為


群れを成して飛来します。俗に彼岸に訪れ翌年春の彼岸に去ると言われています。。旧暦九月は雁来月と呼び


九月に吹く風を雁渡しと言われてきました。渡りの姿は雁行(がんこう)と呼ばれ、はすかい、かぎがたに飛ぶ


習性から雁木(がんぎ)とも言います。建築の床の間の床脇のはすかいに釣った違い棚を雁木棚≠ニして


名が残っています。










雁(ガン)は日本人祖先が最も愛してやまない鳥の1つです。万葉集や物語に絵画の題材にも多く


取り上げられてきました。それは山中の池、沼から薄暮から夜にかけて食を求めて田畑に舞い降ります。


ガン特有の隊列を組んで飛ぶ姿光景が朝霧や月夜山河と日本の秋の深まりと共に時候自然現象に


よく溶け込み、人々が絵心を持つように心情が掻き立てられたのだと思います。









カハハン、カハハンと独特の鳴き声が物悲しさに似た秋の情景にぴたっとはまったことも理由のひとつかも


しれません。雁類の後に日本に飛来する鴨類は歌などにあまり取り上げられていません。


今月の床の間飾りは床に浅い黄土色の毛氈を敷き、沼津垣越しに秋風に吹かれた芒(すすき)の尾花の穂を


多く活け込み、ふくべの花入に彼岸花(曼珠沙華 まんじゅしゃげ)の赤花を添えています。床中央、


松洒落板の板額に本題にある銀の月に雁行が象嵌されています。右に月形入りの鉄の燭台を置き季と合った


紙敷と香合の組み合わせです。この床飾りは名残り∞夜咄≠フ茶事に用いても良いと思います。









垣根:沼津垣と呼ばれ、静岡県沼津地区しか見られない特殊な垣根の編み方です。


花器:ふくべ(かんぴょう)  花:芒(すすき・矢羽根) 赤 彼岸花


敷板:香節栖 栗老木コブ杢目







燭台:雲州(島根県)くろ加根鍛造月形






紙敷:雁音(かりがね)栖

香合:葦舟(あしふね)仙台埋もれ木細工品










月ニ雁=@板額

板:松の古木洒落材、木のヤニが芯際で固まり風化した材






象嵌:銀月・雁七羽・銀いぶし象嵌 板の下に明治の終わりから大正の初めの作品と思われます。洒落に心有る


このように板材を巧みに使いこなせる職人さんが今数がますます減っています。











夜茶事 秋深し





小学生の頃、切手収集に熱を上げていた一人で中央の板額栖と同じ月に雁∞見返り美人≠ニ共に淡い


紫色の切手は高根の花で手に入れる事が出来なかった思い出があります。


秋深し、秋の夕暮、さびしさ、郷愁。


床飾りを通じて何か思い浮かばれたら幸いです。


月二雁のお話しでした。








25.10.12 東京数寄屋倶楽部 村山元伸