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作品




建具(夏戸)





扁額の注文を頂いたときは衣替への6月が迫ってきており、いろいろ細部(意匠・デザイン・葦の種類


建具材の材種等)を施主と打ち合わせを重ねました。製作上困ったことが2点ありました。


建物・茶室全体ですが、ハウスメーカーのメーターモジュールを採用している為部屋の建具・襖の開高部が


茶室・一般の5.8尺(1758o)が6尺(1820o)であったこと、鴨居・敷居溝が基準の7分3分7分が7分4分7分あった


事です。開高の60o差溝の1分(3.3o)は一般の方からすると大した問題に映らないと思われがちですが、


製作する側には大きなハンデとなりました。茶室はすべて約束事になっていますので、まず建具の引手(手掛り)


位置を約束の2尺(60p)内外なので、これに準じて設けると室内から見る視線があまりにも低く見えて


客の心持ちが安定しません。また溝の差は建具寸法にも災いします。4枚襖・建具の場合建具のあき(隙間)が


大きく出てしまい、座る位置によりその差は光が差し込むくらい重ねしろがあいてしまいます。


材料の寸法も少し大きく取らないと柱(間柱)の寸法が大きい為、写りが悪くなります。葦(よし)の径の大きさ


編み込み・竹の押さえの寸法等が基本と大きく異なり結果的にすべて特注となりコスト的にも割高となります。






新保邸の茶室は使い勝手、特に亭主と客の動線は施主と相当打ち合わせをしたことがうかがわせる程


よく出来ています。ただ一つだけ寄付と玄関が直線的な位置の為、来客者にある意味建物配置が悟られる感があります。




   



寄付の建具は腰下を黒部杉網代編みとして外部分からの視線を塞ぎました。


建具寸法に合わせるのに網代編み総厚をぎりぎりに仕上げ、座敷等の夏戸より1段侘びさせる為


本来押さえ竹は部屋の外側・部屋内は杉角が見えるのが基本ですが、両面竹押さえにし更に


中帯杉柾板の両側に引手金物を配置しました。









座敷の夏戸では、金物引手は使われない例が多いのですが、この部屋は境上部に表千家好み、桐柾材に格の高い


踊り桐図≠フ透かし彫り欄間が入れてあります。







格調に合わせ、また建具材見込み寸法も大きいので、手掛かりの位置を心持ち高く、中帯に杉柾材を入れ


視線に安定感を持たせました。金具引手は珍しい茶壺≠フ形の上品な物を添え、夏から秋へ深まりと共に


口切りの茶事≠楽しみに連想するにはピッタリの意匠となりました。







10月に入り衣替えとなり、黒塗り縁に上品な桐紋入りの襖替えとなります。







新保邸では夏戸建具材はすべて樹齢350年を超す日光杉を使い、近江葦の磨細物を、また金物引手はすべて


めずらしい茶壺形(小)≠配置しました。これから経年変化が待ち遠しい夏建具となりました。






数寄屋建築では多少、視覚を外させたり建物配置や部屋配置を直線的ではなく多少振る≠ニ言う事が


特に大切です。間を切る・ひと呼吸置かせる・場を設けるという意味、考えです。来客者は茶会の


趣向はもちろんの事、もてなし、室礼、どうゆう茶室なのか期待感とときめきを持って来ます。


また亭主の見識の高さまでも読み取りに来ると言っても過言ではありません。それに応え報いる


気遣いが数寄者の基本の一つと言われています。




最近はネット流行(はやり)で中古の夏建具を販売している店もあると聞きます。茶室は同じ関西間でも


サイズが異なり中京サイズ、関東間といろいろなサイズです。中古で寸法を詰めてもうまく納まりません。


腰板や帯に観世水や千鳥の透かしなど料亭ではないので、このクラスの物は外国の方のオリエンタル


インテリアとして使って頂くのが幸いと考えます。




建具夏戸は価格的に1本地杉を使って8万円が標準ですが、ヨシの種類中国の輸入材料等いろいろの


ランク意匠によって異なりますが、上級品で12〜15万が相場です。


長きに渡り使用出来、自分自身の数寄の心の衣替え≠ニ考えれば決して高い買い物とは思いません。






ここで紹介した夏建具は千葉市花見川区、新保邸茶室に無事納まりました。







24.10.11 東京数寄屋倶楽部 村山元伸