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数寄屋材



葦(ヨシ)・葦(アシ)






九月の終わりには秋冬に向かって衣替え、夏の装いのヨシ戸は襖建具と総入れ替えになり、茶室外部の


ヨシスダレは茶会のあるごとに1年を通して使用されますが、寄付等、籐(とう)網代の敷物は取り外され、


場所によっては風炉から炉へと畳までも入れ替えられることもあります。京都の料亭、お茶屋さんの多く集まる


街では通年掛けられます。また都会のビル内の店舗は化粧として一年中掛けて置く傾向にあります。








日本ではヨシ・アシは同義語として使われ、見分けのつかない事が良し悪しの語源とも言われています。














ヨシは水湿地に群生する多年草で東京でも河川の両岸に群生しているのが見られます。現在材料としての


ヨシは湖沼の日本国中の物が使われますが、背丈の長く適度の径寸、粘りのある材料となると琵琶湖産の


近江葭が最上品とされています。冬場刈り取られ良い物を天日干しにし、1〜2年乾燥された物をヨシ戸や


ヨシスダレ採寸法に合わせ編み込みされた物を使用します。













近江葭 大神柄合わせ




皮付ヨシは古くから正統派の数寄屋茶室に多く使用されてきましたが、皮付ヨシは使用が長くなるにつけ


どうしても皮が自然と落ちる傾向がある為、手入れの事もあり最近は皮を大方剥いた材の磨きヨシを注文


される方が多いです。












下の画像の大神柄は天日干しの時、人に例えると日焼けを考えるとおわかりと思います。


日焼けした所の部分と無い部分をうまくバランスよく寄せて山形に編み込んだ柄合わせです。


意匠的に衝立や建具として用いられます。













1枚のヨシ戸には一方が角材の杉、一方は竹を平割にしたもの、この2本でタテ編みのヨシを両方から


挟み込んで造られています。どちらが部屋内になるのでしょうか?建具屋さん茶人の方でも意外と気づかない


部分で答えられない方が居ます。諸説はありますが、数寄屋建築では、広間のような格式のある部屋では


杉の角材を部屋内に見せ、侘びた草≠フ格の茶室や水屋廻りの仕切戸では、部屋内に竹を見せるのが


基準となっています。竹・赤の角材共、奇数段数(3・5・7)が基準です。









関西京好み ヨシ編みは縦






江戸好み ヨシ編みは横





いつの時代から関西・関東でヨシの編み方向が逆になったのか定かではありません。現在東京の


古い食べ物屋さんに行くと江戸好みの夏戸が見られます。茶室ではすべて京好みの縦編みが基本ですが、


設計意匠では江戸好みを希望される方もいます。











ヨシ戸は赤杉の角と竹押さえによって構成されています。竹の押さえは晒竹・胡麻竹(錆竹)・煤竹がよく


使われます。茶室の格、構成する部屋等の雰囲気により用いる竹の種類を替えます。

















竹を押さえる和釘は全て鉄の手打ち品浄益釘が約束です。釘の頭の巻いた物、


巻頭釘(まきがしらくぎ)が昔から使用されてきましたが、最近、にじり戸も含め大切な着物を


傷つける事や掃除手入れの際、釘の頭が大きい事もあり、布等を引っかけやすい為、


最近は貝のおとがいの形をした、替折釘(かいおれくぎ)や頭の丸い銅、


真鍮釘も多く使われるようになりました。浄益釘は面に向かって釘頭は全て立て方向が基本、約束です。



















いろいろな吊り口    上 花菱金具 下 盃(さかずき)










花寄せ 葭屏風









スダレ受け金物



スダレ受け金物は浄益のほたる釘に始まり、いろいろの金物の種類があります。用途格式等により


使い分けしてください。花寄せ(茶事)に使用する籠花器受け釘にもいろいろサイズあります。














ヨシ戸引手いろいろ



ヨシ戸、茶室使用の基本では引手や透かし彫などを用いません。都会では茶室以外の使用、用途の巾が広がり


涼しさの演出も手伝い小さめの瓢箪柄の引手や観世水などの透かし彫りなど意匠的に用いるケースも多くなっています。













ヨシとアシがテーマなのでアシと言うとエジプトのアシを思い浮かべる方が多いと思います。世界で初めて


紙として使われた材料、パピルス文書は有名です。地中海沿岸に分布しているカヤツグサ科の別種で


最近不思議な葉形から立ち姿として観賞用や生花にも多く用いられるようになりました。












パピルスの張りあわせ、ピラミッド形の意匠にまとめたオリエント風の風炉先屏風








茶道指物師:風里谷藤伍造










ヨシとアシ、デザイン、意匠の良し悪し、数寄屋建築を構成する極小の和釘一本、竹・ヨシの太さ、本数


このように小さなジャンルでも大変気を遣う分野です。数寄屋材量、感性の葭(良し)・葦(悪し)のお話しです。










25.9.29 東京数寄屋倶楽部 村山元伸