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数寄屋材



柿(かき)・黒柿(くろがき) その弐






黒柿材













床框(とこかまち)用に仕上げた角材です。数寄屋の框は茶室の大きさにもよりますが、


立ち上がり高さ3.5寸(105o)×天場(てんば)2.5寸(75o)までの寸法となります。


小間では3寸(90o)×2寸(60o)内の使い方となります。黒柿は千家流の茶室ではあまり作例をみません。


武家流儀の茶室では多くの使用例を見ます。黒柿角仕上がりの床落掛は数寄屋では用いません。


軸掛けに対して一文字に横切る為、黒白の模様が入った落掛けは軸を妨げる、また杢目柄が浮き立ち


過ぎるので安定感から言って使用しないことになっています。


















床框としては珍しい部類に入ります。黒柿丸太の芯部が根腐れしてて空洞化した部分の自然の力で洒落化した


部分から得られる框材です。同じ角材でも黒の洒落肌が一層侘びさを感じさせます。


明治、大正、昭和と近代数寄者が愛し、取り上げた材料の1つでもあります。





チョークで斜線を引いた部分は材の反り止め≠フ目的で当てた櫻材です。

建築施工時当て板を取り去り、寸法を取り直します。


















豆黒柿(皮肌1目のみ黒模様が出た貴重材)。丸味を生かし、茶室小間の框(かまち)、細いφ1.8寸(55o内外)は


点前座の下がり壁の見切り(壁止まり材)等に使われます。


またこの肌目を生かし作られた炉縁は数寄者に喜ばれ、逸品と言えます。

















黒柿の琵琶床の小柱(束柱)です。琵琶床の束柱で広く知られているのは、


表千家・松風楼の桐四方柾≠ヘ有名です。


この束柱2本使って上がり束、下がり束、


柱1本を見せるのではなく上下に付け間を取り去る工夫された床空間もあります。

















黒柿コブ(花咲コブ)と呼ばれる物で、枝折れ、虫害など自然条件の中で生まれる珍しい材です。太い材は料亭や


旅館などの床柱として、また細い物は棚板の釣り木束として用います。写真の材の太さは2寸(60o内外)で、


この寸法がなかなか自然界の中では生まれません。この寸法は茶道具の棗(なつめ)・茶入れとして珍重されます。


材は違いますが、蔦(つた)の適寸法を生かした金輪寺(きんりんじ)£リが有名です。








黒柿で作られた棗(なつめ)














黒柿の杢目柄


先にお話ししたように、木の芯部に黒い縞模様を帯びた柿があります。すべての柿の木に出るのではなく、


自然の条件下で出ると言われています。いまだにどうして杢目柄が出るか謎とされています。


植物学上はタンニンが凝縮されて出ると言われています。









柿の木の白(樹肉)









うっすらと黒柿の縞目が出始めた材を縞目(しまめ)・縞柿と呼ばれます。









縞目が更に発達して漁具の網(あみ)の網目をした模様を網目杢と呼ばれます。

板の巾に対して荒・中・細い網目があります。









縞目模様の中に鳥の羽根を広げたような杢目柄があります。この羽根模様の中に翡翠(ひすい)色の深い緑色が

杢目に入っている物を、まるで孔雀が羽根を広げたような色彩なので孔雀杢≠ニ呼ばれさらに珍重されます。

緑色は黒柿を多く手掛けた方なら知っていると思いますが、永遠の宝石のように緑色がある訳ではありません。

目の詰んだ良材を製材した時、まだ水気があるのでこの緑色は多く発生しますが、乾燥が進んだり、経年により

空気や紫外線により消えていきます。(たまに緑が残ることもあります。)

正倉院御物の中に作られた当時緑色の色彩を放っていたと思われる作品があります。また近年の人間国宝、

木工作家の作品でも同じ事が言え、長い経年変化で緑≠ェ残っている作品はありません。

正倉院の作品の中に桧の板に当時の人が黒柿の小豆(あずき杢)を墨で描いた作品棚があります。

仮作(げさく)物、今でいう黒柿杢の模倣品です。この時代の人々も黒柿の不思議な杢目に魅了されていたんですね。








網目がさらに細かくなり、袋・房状の杢目が現れた物があります。

細い粒なので小豆(あずき)杢≠ニ呼ばれます。









風・台風・風の通り道に生えていたのか、自然の中から生まれた湧き上がる波紋・風紋のような

縮緬(ちりめん)杢≠ェあります。

孔雀杢∞小豆杢∞縮緬杢≠ヘ数寄屋建築では用いませんが、指物・工芸をされる方々に

珍重される杢目柄です。ちなみに同じカキノキ属なので唐木の黒檀(コクタン)にも

緑の縞が見られ、青黒(あおこく)と呼ばれ、これも珍重される材、杢目柄です。











25.3.7 東京数寄屋倶楽部 村山元伸