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数寄屋材



栗・突鑿(つきのみ)・名栗(なぐり)



明治時代の終わりにかけて建築の流れが洋風建築また人口の増加にともない花柳界もふくめて一変しました。


今まで手斧(ちょうな)による削り(はつり)から洋風需要に伴い専門職としてツキノミが枝分かれし独自の


ノミによる意匠・パターンが続き続きに開発されました。例えば、間仕切りのルーバー板、濡れ縁の小巾板


腰板に用いる棒物と呼ばれるものまでツキノミが使われました。


手斧(ちょうな)とは違う味わい洋風に合う名栗として、昭和中頃に花開きました。かつて京都、大阪、名古屋を


始め地方の都市にも専門の職人がたくさん居たと聞きます。東京でも戦後から最近まで3〜4軒業者がいました。


現在では1軒のみとなり寂しいがぎりです。









ここで1本の床柱(槐えんじゅ)材をまるで杣(そま)名栗や手斧(ちょうな)名栗のように似せてツキノミ一本で


仕上げる過程を紹介します。






両左右にある太い材は丸太を角に落とし白太(成長層)を景色に取り入れ亀甲(大面3枚)名栗風に仕上げた床柱です。


仕上げは蝋引きです。左から2本目は木地の角材です。そして左から3本目は木地に杣削り(そまはつり)風にノミで


仕上げたものです。ツキノミ1本でこのように名栗風に仕上げる事ができます。




作業工程





@名栗を入れる角材の選別。節や白太の付き具合全体のバランスを頭に入れて材を決めます。


A写真のように木肌や杢目をみながら削り(はつり)面を材にチョークで描きます。


B道具(ツキノミ用の特殊な形をしたノミです)1本現在注文しますと7〜8万円はするそうです。(東京では


本所緑町井上刃物店が扱っています。)


C道具は材により又そのツキ方により大・小ツキの浅・深、ツキ巾大・小により常時10本以上使いこなします。






各種ツキノミ











実際にチョークで描いたところをツキノミで突いている作業




D仕上がった材面に荒久田(あらくだ)の泥を化粧面に塗り込みます。木の導管が太い材、栗・槐・桑などは


石灰で洗っても良いのですが、土の方が茶室建築には良い結果を出してくれます。






E2〜3日天日乾燥後乾いた土泥を柔らかい金ブラシで丁寧に落とします。更に稲縄の束ねたものでブラッシング


すると木目(冬目)に艶が生じてきます。


F仕上げに自然油(くるみ油等)材により拭き込んで出来上がり完成です。








ツキノミによる代表的なパターン


左矢羽根仕上がり。左から2本目紅葉パターン。3本目ダイヤカット。4本目違い名栗


5本目は入り違い矢羽根





いろいろな材をツキノミを施しますと、こんな材がこんなに魅力を引き出してくれるんだと


驚く方が多くいます。








杣名栗された柱






泥汚し










ヤニ松の丸太を杣名栗風にした床柱













敷台(桜材)に名栗を入れた例











栗に波状のツキノミを入れた竿縁











チークにディンプル状にツキノミを入れたフローリング材







このようにツキノミ仕上がりは無限に可能性が広がります。たとえば過去の建築できわだった部材を再現


することも、名席の部材を写真からでも同じ名栗パターンを材にトレースすることにより本歌(ほんか)の


忠実な写し物が可能になる訳です。






取材協力:ときわ名栗店(東京・新木場) 原澤光嗣氏 53才





24.12.9 東京数寄屋倶楽部 村山元伸