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数寄屋材



栗・雑木丸太・名栗(なぐり)



前にも説明しましたが、昔から栗の新旧使い≠ニいう言葉があります。樹齢の若い木は皮付のまま賞で


太く樹齢の高い目の詰んだ老木は板材と、適材適所にうまく使い分ける事を指した言葉です。







栗に近い皮付丸太雑木類を並べてみました。(8年〜10年管理された丸太)


写真左より栗・椋(むく)・栗・栗(栗の皮付丸太)は各産地伐採した地理や標高により皮肌の艶や彩が異なります。


最低でも4〜5年の乾燥を必要とします。また伐採期は水の吸い上げの終わる寒期が目安となります。


虫害の恐れ(後になって皮肌が落ちる)があり倉庫内で毎春・秋に防虫処理を行ったものが条件になります。






中央2本は檪(くぬぎ)の床柱用と台目柱です。右から3本目、4本目は檪に似ためずらしい阿部槙(あべまき)≠ニ


言う樹種です。右から1本目、2本目はこの木の鬼皮を削って仕立てた物(削っただけで表情が変わります。)


使用例は京薮内家流家元邸・桂離宮西門の門柱に使用されています。










左は桜の径が台目柱として太いので、削りはつりを入れた物です。右は檪の台目柱で今まで見たことのない


寸法曲がりの美しさで、在東京武家の流派の家元の御取置きの品です。











名栗


大工道具でもある手斧(ちょうな)で意匠的規則的に削り(はつり)を面に施すことを名栗(なぐり)≠ニ言います。





童話の中で金太郎≠ェ持っている鉞(まさかり)大型の斧で不規則・荒く削り(はつり)を施すことを


杣(そま)名栗≠ニ言います。






名栗丸太の由来


江戸時代(天保年間)現京都市北区・下北桑田郡弓削(ゆげ)村の杣職、鵜子久兵衛(うこ・きゅうべえ)が


栗の木に杣目(そまめ)を入れた丸太が出来が良く京市内でよく売れたそうで、有名な栗丸太≠フ文字から


名栗(なぐり)*シ付けた(塗装品)言われています。





現在全国捜しても杣名栗(そまなぐり)・名栗(なぐり)が出来る職人は京都にたった3人しかいません。


少し前まで京なぐり匠%ソ三(とくさん)こと故徳山義博氏が有名で名栗を芸術的領域まで高めた方が


居ました。これからの茶室・数寄屋建築を考えるとき、もっともっと職人さんに光を当てて頂きたいものです。









いろいろな材種の名栗





左より栗名栗(茶席の壁止め材)・栗床柱(正面二枚亀甲名栗)


左より3本目、4本目は北山杉の六角名栗

5本目、6本目は北山杉磨丸太削りはつり名栗

7本目、北山杉床柱の五角名栗

8本目は御蔵島桑の頭巾(ときん)名栗拭き漆仕上げ

9本目は肥松の頭巾名栗春慶塗り

最後は櫻(さくら)の杣名栗拭き漆仕上げ






北山杉名栗に溜め色の漆を施した材を使ったものに表千家、松風楼(しょうふうろう)床框(とこかまち)があります。



各名栗材は材の持っている気質や格(真行草)に名栗を施したり漆掛けをすることにより真の格の材が行格に、


行の物が草格になったりと千変万化≠ノなり材の持つ魅力が一層引き出されます。また手斧(ちょうな)の刃の


サイズにより一枚名栗・二枚名栗・三枚亀甲・鹿の子(かのこ)名栗など打ち方により更に面白い表情が表れます。













杣(そま)・名栗・削り(はつり)材の使用例




国宝京龍光院密庵(みったん)の席・国宝犬山如庵


国宝各名席を始め、茶家藪内家燕庵(えんなん)・武者小路千家官休庵(かんきゅうあん)・裏千家又隠(ゆういん)


など削はつりや名栗を施した床柱は有名です。











茶室小間床柱 アララギ(一位)の太い木に削(はつ)りを施した例









名刹の梁古材と新しく削りを施した新材の取り合わせの天井空間


民芸数寄屋に欠かせない名栗の景色です








名栗に材種は問いません。古材や傷のある材でも名人の手によるセンスにより、思いがけない表情や


景色が現われるものです。猿面茶席の床柱、織田信長と秀吉のエピソードのように・・・






国宝京龍光院密庵(みったん)・国宝犬山如庵(じょあん)を始め、茶家では裏千家又隠(ゆういん)


薮内家燕庵(えんなん)・武者小路千家官休庵(かんきゅうあん)・江戸千家一円庵(いちえんあん)など名席と


呼ばれる茶室には当時の大工による削り(はつり)や名栗(なぐり)を施した例は少なくありません。







長い歴史に培われ形成された茶室様式の美


日常的な山仕事の伐採時の道具から削り(はつり)・名栗の目跡(めあと)が茶人の美の眼力を通じて今に


伝わっている事に驚きを新たにします。












24.12.9 東京数寄屋倶楽部 村山元伸