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数寄屋材
けんぽなし(玄圃梨)
植物学上は、クロウメモドキ科に属します。北海道奥尻島から、南は本州・四国・九州温帯、暖帯にかけて伊豆大島や
対馬にも分布している木です。皮肌は梨やリンゴの皮肌をしていて桑の外皮にも似ています。江戸時代の天保飢饉の
際、この実まで食したという事から天保梨(てんぽなし)とも呼ばれ地方名には山梨(やまなし)の呼名もあります。
材の肌色からオレンジ(黄褐色)系と紅褐色の赤系の二通りがあります。また産地で言えば西日本や島産の方が
良材とされています。
二枚は同じケンポナシですが、左は桑色付け(クロム酸)を施しています。
材の利用は小さな物は文房具に始まり箱物・盆・指物と楽器では三味線の胴にも使われ、大きな材は
家具類、文士らの机等に利用されてきました。建築材としては床柱・床脇材・棚板類・玄関敷台にも
使用されています。数寄屋建築では書院甲板や茶室小間中板・炉縁材にも使われます。戦後は桑材の
枯渇に伴い宮中の調度品椅子や御用車のパネル内装、昭和40年代の新宮殿造営の際に装飾材として
合板・集成の技術の進歩に伴い突板(つきいた)として使われました。
玉杢や縮緬杢の表れた材
この材の大径材は少なく巾70p前後が最大で90pを超えるのは稀で現在では材の枯渇が著しく銘木市場に
45〜50p丸の原木がたまに出るくらいです。大きな木には縮緬杢(ちぢみ)・漣杢(リップマーク)があり
玉杢が出る木もあります。この材は和・洋と別けた場合、洋向き杢目で欅やセンダンにも杢目が似ていても
軽さがあります。大径材の良材は合板突板の進歩に伴い昭和40年代より突板用フリッチ材としてもてはやされて
きました。材の魅力は充分に備えた材ですが、桑の代用品としての材として、低く見られそのことが戦後から
引きづっていてある意味悲しい材でもあります。
左:御蔵島産桑
中と右は同じケンポナシですが、桑色付け(クロム酸)を施しています。経年変化しますと、
桑と見間違えるほどです。
現在では小さな物しか材が取れません。
今後我々業界、指物業界も含めて改めて材の魅力を引き出す努力が必要です。
左:クラフト用の玉杢縮緬杢がある材
右:指物用の板材(小巾)
下:ケンポナシで作られた炉縁 東都指物 風里谷藤伍作
左:縮緬杢
中:小玉杢
右:漣紋(さざなみもん)
小物材、クラフト材の拡大画像です。杢になんとも言えない軽快さがありどことなくバター臭さも残り
本当に魅力の多き材です。
24.10.14 東京数寄屋倶楽部 村山元伸