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数寄屋材



栗(くり)



栗(日本栗)は北海道日高地方以南より本州・九州・屋久島まで全国に分布している木です。一般の方は


栗と言うと、材の耐水・耐久性の高さから家の土台、または鉄道の枕木(まくらぎ)と思い浮かべる方が


多いと思います。又安価な概念をお持ちです。数寄屋の栗≠ヘ全く違う要素が多くあり雅味のある優れた


材は今では高価で貴重な材なのです。












右:よく整った柾目材

中:巾広の柾目材

右:ごく一般的な板目材










数寄屋の栗とは産地で良いのは北関東・南関東(奥秩父)・中部(静岡・岐阜)・九州(宮崎)・屋久島と並びます。


かつて愛知県北設楽郡に御用林が有り昭和30年代まで良材を産出していました。栗と言うと寒冷地東北地方と


思う方が居ますが、良質材は温暖な地方でなおかつ山深い(深山物・しんざんもの)ところで良質材を生みます。


板取りとしては樹齢200年以上の材、直径2尺(60p)前後から上の材を使用します。栗は樹齢が若いほど


木の狂いが生じやすく、アクが出易い為、伐採後3〜5年は必ず水(掘割)に浸し製材後乾燥8〜10年は当たり前の


世界です。施設の無い産地では丸太に藁菰(わらこも)を巻いて、日陰で1年程雨に打たせて製材します。


指物用材となると、10年20年の乾燥を必要とします。最近木を造る人(製材から板材になるまで責任のある


仕事をする人)が少なくなりボンドを板目に塗り2〜3年で市場に出す業者が多く不乾燥品が多く出まわり栗の地位を


下げていることは嘆かわしい事です。











左:樹齢の高い杢目(200年)

中:細かい縮緬杢(チヂミ)が出始めている材

右:縮緬が小さい玉杢に変わっていく杢目
















板に各所で採れた部位を重ねた画像です。

縮緬杢(チヂミ)がタクリ杢となり、樹齢と共に玉杢に変化していく事がおわかりと思います。













栗は茶室内一つとっても床柱・床框・竿縁を始め台目柱・中板(小間)・敷居・鴨居に至るまで多く使われ


外部としては、巾木・濡縁・縁甲板(フローリング)、茶苑では中門・枝折戸の小柱から外塀まで使用されてきました。














わざと完品ではない、虫喰い部分の栗柾床材(ゆかざい)を張った例、(当ショールーム内)
















一本引きの障子桟から腰柾材、枠材すべて350年生の枯れた栗材を用いた引戸です。(当ショールーム内)















数寄屋では栗の新旧(くりのしんきゅう)使いと呼び、若木の材は皮付のまま愛でて(皮付丸太材)、その中間に


位置する材は外皮を取り去り、チョウナ(手斧)を使い(名栗材 なぐりざい)、人の手による加工跡を愛で、


旧(きゅう)大径材から各建築材料を取り出し材の景色を含めて適材適所にこれだけ多用途に使われる材は


杉・竹類・栗ぐらいで古くから巾広く使われてきました。先人達の木の使い£B人のバリエーションの多さに


頭が下がります。







栗では珍しい玉杢の材です。指物工芸用として使われます。















左:栗の鹿の子*シ栗

中:栗の山名栗

右:糸柾の栗材(4寸に150年程の柾目数)



















茶道の世界の栗


炉縁材は栗の炉縁とは呼ばず、沢栗(さわぐり)・尾州沢栗(びしゅうさわぐり)と呼ばれます。江戸の昔より


大名・藩政で擁護されてきた御用林に引き継がれていて、その当時の名称が冠されて呼ばれます。


沢栗も樹齢が増した木・深山栗の代名詞です。利休時代には作者に久以(きゅうい)・半入(はんにゅう)など


の名工がすでに居てそれぞれ刻印を用いた事より現在の指物師のルーツに当たります。この時代の炉縁は


組み立て式で茶会後水で洗うため、洗い縁(あらいぶち)とも呼ばれ、四本まとめて旅箪笥に納まるよう


工夫されていました。今でも炉縁の四隅にホゾ穴と栓差しの仕事の名残り跡が見て取れます。











画像上:栗材神代(火山活動による灰の埋もれ木)・板目・縮緬杢 そして栗材の縮緬杢が大きく入った材

画像下  左:虫喰いを景色として組んだ炉縁

右:栗に拭き漆を施した茶室小間・広間兼用の炉縁です。


東都指物 風里谷藤伍作















左:栗材を使ったまさに栗≠フ香合  松本宗広作

中:栗の縮緬材に拭き漆を用いチヂミを生かした茶杓

右:栗の皮と表皮部分を用いて作られた茶杓


数寄者 伴江漁徒作













24.10.14 東京数寄屋倶楽部 村山元伸